した。そのほかにかれが手紙を書いたのは、正木一家と大巻一家とであった。正木の祖父母には、中学入学以来、自然接触がうすらいでいたが、幼時の思い出にはさすがに絶《た》ちがたいものがあり、ことに二人とももう八十に近い高齢《こうれい》なので、遠く隔《へだ》たったらいつまた会えるかわからないという懸念《けねん》もあった。で、上京前にはぜひ一度会っておきたいという気がしていたが、上京の理由を説明するのに気おくれがして、とうとう会わずに来てしまった。その謝罪の意味もふくめて、とくべつ長い手紙を書いたのである。大巻一家は、郷里では眼と鼻の間に住んでいて、こちらの事情は何もかも知りぬいており、上京前には、運平老《うんぺいろう》がわざわざかれのために「壮行会《そうこうかい》」を開いて剣舞《けんぶ》までやって見せてくれたりしていたので、手紙を書くのにも気は楽だった。しかし、その壮行会の席につらなった人たちの中に、恭一と道江《みちえ》という二人の人間がいて、何かにつけ睦《むつま》じく言葉をかわしていたことは、かれにとって消しがたい悩《なや》みの種になっていた。
「恭一さんは、大学はどちらになさるおつもり? 東
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