作ってもらいたいとは願っている。しかし、それは今でなくてもいいことなんだ。今のところは、何といったって中学を出て、上級の学校に進むように努力することがたいせつだよ。」
「ぼく、ほんとうは、先生が青年塾をお開きになるんなら、一生先生の下で働かしていただきたいと思っているんですけれど。」
次郎はいくらかはにかみながらも、哀願《あいがん》するように言った。
「ありがとう。それは私ものぞむところだ。実は、機会が来たら、私のほうから君に願いたいと思っていたところなんだ。しかし、それにはやはり一通り基礎的な勉強をしてもらわなくちゃあ。」
「勉強は独学でもできると思います。それよりか、最初から先生の下でいろんな体験を積むことがたいせつではないでしょうか。」
「塾の大先輩《だいせんぱい》になろうとでもいうのかね。はっはっはっ。」
と朝倉先生は愉快《ゆかい》そうに笑ったが、すぐ真顔《まがお》になり、
「なるほど、塾の気風を作るには、最初から君のような人にはいっていてもらえば大変ぐあいがいいね。これは、君のためというよりか、私にとってありがたいことなんだが。」
次郎は、眼をかがやかした。朝倉先生は、
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