先生は良寛和尚《りょうかんおしょう》を思わせるような風格の人で、その言葉や動作の中に作為《さくい》のないユーモアがあふれ、それが話の内容にぴったりしていて、この日の講義としては、あつらえ向きだった。
中食後の座談がすむと、民芸に特別の関心を有する二三の塾生が小西先生の帰りを見おくって、門のあたりまでついて行った。そのほかの塾生たちも、そのあとから、ぞろぞろと塾庭に出て、三人五人と、草っ原に腰《こし》をおろしたり、森をぶらついたりしていた。その光景は、いかにものんびりしていた。今日のお客を迎《むか》える前にしてはのんきすぎるようにも思えたが、これも実は次郎と大河とが組んだプログラムの中の、かくれた一コマだったのである。
一時ちょっと前になると、朝倉先生夫妻も塾庭に姿をあらわした。それとほとんど同時に、自家用車らしい黒塗《くろぬ》りの自動車が一台、正門をすべりこんで来るのが見えた。みんなの眼《め》は、自然そのほうにひかれた。中でも次郎の眼がぎらりと光った。かれはその時、草っ原に腰をおろしていた仲間の一人だったが、いきなり立ちあがって、朝倉先生のほうに走って行き、何かささやいた。
自動車は、もうその時には、二人のすぐ前まで来ていたが、通りすぎたかと思うと、すぐとまった。そして、その中から出て来たのは、鈴田《すずた》に手をひかれた荒田老《あらたろう》だった。
「あっ、荒田さんでしたか。ようこそ。……あなたがお出《い》でになることは全く存じがけなかったものですから、どなたのお車かと思っていました。」
と、朝倉先生が歩みよりながら声をかけた。
荒田老は、和服の上にマントをひっかけ、毛皮製のスキー帽《ぼう》みたようなものをかぶっていたが、帽子には手もかけず、
「やあ、塾長《じゅくちょう》さんですか。」
と、黒眼鏡を朝倉先生の声のするほうに向け、
「今日は、しばらくぶりで、わしも見学にあがりましたんじゃ。まだ興国塾からは見えませんかな。」
「一時に到着《とうちゃく》という約束になっていますので、もうすぐ、見えるでしょう。」
そう言っているうちに、正門の外から、「歩調取れ」というかん高い号令の声がきこえ、つづいて、カーキー色の服を着た一隊の青年が、ももを高くあげ、手を大きく前後にふりながら、堂々と門をはいって来た。
それを見ると、こちらの塾生たちは、ほうぼうから急いで朝倉先生の立っている近くに集まって来た。そして、手を高くあげて叫《さけ》んだり、拍手《はくしゅ》をしたりして、歓迎《かんげい》の意を表した。むろん、みんなの顔は笑いでほころびていた。それはちょうど町の群衆が凱旋《がいせん》の軍隊を迎える時のような光景であった。
その間、先方の隊はわき目もふらず行進しつづけて来たが、やがてこちらの集まっている前まで来ると、「分隊止まれ」の号令で停止し、「左向け左」の号令で横隊《おうたい》になった。そして両翼《りょうよく》の嚮導《きょうどう》によって整頓《せいとん》を正され終わると、そのあとは壁《かべ》のように動かなくなった。
同時に、こちらの歓迎のざわめきもぴたりととまり、あたりはしいんとなった。
すると、それまで隊のあとから見えがくれについて来ていた背広の紳士《しんし》が、つかつかと進み出て、まず荒田老と、つぎに朝倉先生と、あいさつをかわした。年格好《としかっこう》といい、容貌《ようぼう》といい、その人が興国塾長の小関氏であることは、次郎には一目でわかった。
小関氏は、あいさつをすますと、こちらの塾生たちの群をさげすむように見ながら、朝倉先生に言った。
「どういう順序になっていますかね。私のほうは、もうすべてご予定通りに動くように準備ができていますが。」
「あ、そうですか。これは失礼しました。」
と、朝倉先生は、すぐそばに立っていた次郎をかえり見て、
「じゃあ、予定どおりすすめてくれたまえ。」
そこで次郎は双方《そうほう》の中間に進み出て言った。
「僕《ぼく》は、本田という者です。今日の進行係をつとめさしていただきます。実はいちおう皆《みな》さんを舎内にお迎えした上で予定のプログラムを進めるのが礼儀《れいぎ》だと思いますが、幸いに天気もよいし、それにこれからの進行の都合もありますので、双方の最初のごあいさつの交換《こうかん》だけは、この青天井《あおてんじょう》の下でお願いしたいと思います。では、まず友愛塾生代表の歓迎《かんげい》の辞……」
すると、大河無門がのそのそと進み出て、歓迎の辞をのべた。それはきわめて簡単だった。わざわざ訪ねて来てもらったお礼と、うちくつろいで歓談してもらいたいという希望とをのべたにすぎなかった。それに要した時間も、おそらく一分以上には出なかったであろう。
つぎは先方のあいさつだった。隊の指揮
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