作ってもらいたいとは願っている。しかし、それは今でなくてもいいことなんだ。今のところは、何といったって中学を出て、上級の学校に進むように努力することがたいせつだよ。」
「ぼく、ほんとうは、先生が青年塾をお開きになるんなら、一生先生の下で働かしていただきたいと思っているんですけれど。」
 次郎はいくらかはにかみながらも、哀願《あいがん》するように言った。
「ありがとう。それは私ものぞむところだ。実は、機会が来たら、私のほうから君に願いたいと思っていたところなんだ。しかし、それにはやはり一通り基礎的な勉強をしてもらわなくちゃあ。」
「勉強は独学でもできると思います。それよりか、最初から先生の下でいろんな体験を積むことがたいせつではないでしょうか。」
「塾の大先輩《だいせんぱい》になろうとでもいうのかね。はっはっはっ。」
 と朝倉先生は愉快《ゆかい》そうに笑ったが、すぐ真顔《まがお》になり、
「なるほど、塾の気風を作るには、最初から君のような人にはいっていてもらえば大変ぐあいがいいね。これは、君のためというよりか、私にとってありがたいことなんだが。」
 次郎は、眼をかがやかした。朝倉先生は、しかし、また急に笑いだして、
「ところで、塾はまだできあがっているわけではないんだよ。建築その他に、少なくも三か月は見ておかなければならないし、趣旨《しゅし》を宣伝したり、募集の手続きをしたりしていると、いよいよ塾生が集まって来るのは、早くて半年後になるだろう。あるいは、君が中学校を卒業したあとで、第一回目が始まるということになるかもしれない。とにかく、君の転校の手続きだけは早くすましておくことだよ。何だかお互いに青年塾の夢にすっかり興奮してしまって、現実を忘れていた形だね。はっはっはっ。」
 夫人も次郎もつい笑いだしてしまった。
 こんなふうで、次郎はとにもかくにもある私立中学に通いだした。むろん学校にとくべつの期待もかけていなかったし、したがって大した不満も感じなかった。むしろ、科目によっては、郷里の中学におけるよりも学力のある先生がいたので、勉強にはかえって実がはいるくらいであった。
 そのうちに、塾堂の建築も次第《しだい》にはかどりだした。日曜には次郎もかかさず朝倉先生といっしょに下赤塚の駅におりたが、そのたびごとに、かれは、建物の位置とにらみあわせて、つつじその他の小さな樹木
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