涙のすっかりかわききれない眼を見はってたずねた。
「今の時代は、やたらに犬ばかりがふえて行く時代だからね。実は、この家のまえあたりにも、きょうの昼頃から背広を着た犬がうろつき出したらしいよ。」
朝倉先生の声は低かったが、めずらしく憤りにみちた声だった。次郎は、さっき自分が街角に立って考えている時、変にじろじろ自分の顔を見て、二度ほどそばを通りぬけた四十近くの男のことを思い起した。
五 道江をめぐって
次郎は、まもなく、せきたてられるようにして、朝倉先生の門を出た。門を出るとすぐ、彼はまえうしろを見まわした。それから、曲り角のところまで来て左右を見、もう一度朝倉先生の門の方をふりかえったが、来しなに自分の顔をのぞいた男は、もうどこにも見えなかった。
日はまだかなり高かった。かわいた砂地の照りかえしが眼にぎらついて、頭のしんが痛いようだった。彼は、何も考える気力がなく、ただいらいらした気持で町はずれまで来た。
町はずれからは松並木の土手が広々とした青田のなかをうねってつづいている。左は、ほぼ五六間ほどの川で、向こう岸もやはり松並木の土手である。旧藩時代のさる名高い土木
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