行くのだった。しかし、そうした自己反省の苦しみは、彼にとってはそうめずらしいことではなかった。彼は中学入学以来、とりわけ白鳥会入会後は、絶えず自己反省の苦しみを味わって来た、といっても言いすぎではなかったのである。だから、もしそれに朝倉先生の問題が直接結びついていなかったとすれば、彼は、きょう学校で、同級生たちにあやしまれるほど暗い顔はしていなかったかも知れない。彼を絶望に近いほどの気持にさそいこんで行ったのは、何といっても、朝倉先生の辞任が決定的であるということに気がついたことであった。彼はそれを思うと、もう何も考える力がなかった。幼いころ、乳母のお浜にわかれたあとのあのうつろな気持、母に死別れたあとのあの萎《しな》えるような気持、それがそのまま現実となって身にせまって来るような感じがして、きょうは朝から誰とも口をきく気になれなかったのである。
 街角に立って考えこんでいた次郎は、思いきったように道を左にとった。
 朝倉先生の家の玄関はひっそりしていた。案内を乞うと、裏口から奥さんがたすきがけのまま出て来て、
「まあ、本田さん、しばらくでしたわね。さあどうぞ。先生は書斎ですわ。」
 
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