次郎は、強いていつもの通りの気安さをよそおって、靴のひもをといた。
「昨日はお父さんがいらっして下すって、きれいなお卵をたくさんいただきましたわ……鶏の方も、本田さん毎日お手伝い?」
「ええ、ときどき。」
 次郎は廊下をとおって書斎に行った。朝倉先生は机の上に巻紙をひろげてしきりに手紙を書いていた。もう五六通書きあげたらしく、封をしたのが机のすみに重ねてあった。次郎が敷居のすぐ近くに坐ってお辞儀をすると、
「やあ、いらっしゃい。……ついでにこれだけ書いてしまうから、ちょっと失敬するよ。」
 次郎は縁側ににじり出て、あぐらをかき、ぼんやり庭を眺めた。午後三時の日が、庭隅の夏蜜柑の葉を銀色にてらしているのが、いやにまぶしかった。
 五六分もたつと、朝倉先生は手紙を書き終えて、自分も縁側に出て来た。
「昨日はお父さんにいいものをいただいてありがとう。……君は当分来ないのかと思っていたが、よく来てくれたね。」
「先生、僕、申しわけないことをしてしまいました。」
 次郎は急いで膝を正し、縁板に両手をついた。
「血書のことが気になるのか。」
 と、朝倉先生は、ちょっと思案《しあん》していたが、

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