にはそれがわかっているんじゃないのか。」
 馬田は、また「ふふん」と笑った。そして、
「君らはすこし本田を買いかぶっていやしないかね。」
「そうかなあ。しかし、僕たちが入学した時のことを考えてみたまえ。五年生の鉄拳制裁にびくともしないで反抗したのは、本田だけだったぜ。」
 みんなの頭には五年まえの雨天体操場における恐ろしい光景がまざまざとよみがえって来た。その時の次郎の英雄的な態度は、忘れようとしても忘れられない記憶である。また、これはみんなが実際に見たわけではなかったが、「三つボタン」という綽名のあった始末におえない五年生の室崎を相手に、次郎が死物狂いの喧嘩をやって少しもひけをとらなかったという話は、あまりにも有名であり、雨天体操場の記憶とともに、自然、それもみんなの頭によみがえって来ないわけはなかった。
 馬田は、機を見るにはわりあい敏感なたちだった。それに、どうせ遠くないうちに何もかもわかるのだと思うと、今しいて次郎をけなす必要もないと思った。
「本田も、しかし、このごろは大ぶ思慮深くなっているからね。」
 彼は、そんな謎のような言葉を残して、さっさとその場をはなれてしまった。

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