いが、それには、彼をあくまでもストライキ反対の立場に立たせておくことが必要である。最後まで彼を反対の立場に立たせておき、いよいよストライキ決行という場合に彼が逃げをうったら、その時こそ血書のことを暴露すべきだ。血書まで書いて人を煽動しておきながら、自分だけ逃げるとは何という卑劣さだ! みんなはそう言って彼を責めるだろう。それに、どんなに彼が逃げを打とうと、学校当局や県庁が、血書を書いた本人を主謀者と認めないはずはないのだから、いよいよ面白い。――馬田の考えは頗る念入りだった。彼がそれほどまでに次郎に反感を持つようになった最も大きい原因が、道江にあったことはいうまでもない。
 馬田のあざけるような笑いを肯定するように、すぐ誰かが言った。
「そういえば、昨日本田は、変に人の顔ばかりのぞきながら血判をしていたが、ひょっとすると血判をごまかしたんじゃないかね。」
「血判はごまかそうたってごまかせないよ。みんなで見ているんだから。しかし、本田がそれをいやがっていたことはたしかだね。」
「それには何か特別な原因があったんじゃないかね。いつもの本田にしちゃあ、すこし可笑《おか》しかったよ。」
「馬田
前へ 次へ
全368ページ中89ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング