をほぼ決定的だと考えているらしいことは、ゆうべの口ぶりからもおおよそ想像されるが、しかし、自分たちが留任運動をはじめようとしていることを知りぬいていながら、何でそんなにごあいさつをいそぐのか、それが彼にはふしぎでならなかったのである。
 あるいは留任運動について先生のお気持をさぐりたいためにたずねたのではあるまいか。それが平尾と全く同じ目的ではないにしても、何だかいやな気がする。――彼はもうだまってはいられなくなった。
「ゆうべのこと、先生に話したんですか。」
「話したよ。」
 俊亮は平気で答えた。次郎は父がにくらしい気になりながら、せきこんでたずねた。
「先生はどう言っていられたんです。」
「べつに何とも言われなかった。ただ、かわいそうに、と言って気の毒そうな顔をしていられただけだよ。」
 次郎は打ちのめされた感じだった。もう何も言う元気がなかった。だまってうなだれていると、俊亮はトマトのわき芽をつむのをやめて立ちあがりながら、
「おまえも一度先生をおたずねするといいね。先生の方でも待っておいでのようだよ。」
「ええ――」
 次郎はあいまいな返事をした。そして父がカンカン帽をかぶりな
前へ 次へ
全368ページ中73ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング