、この血書を生かすには、一つの条件がある。その条件というのは、絶対にストライキはやらないということだ。それは、この血書を書いた人がそれを心から願っているからだ。彼は僕にこういうことを言った。――朝倉先生は暴力の否定者である。然るにストライキは一種の暴力だ。暴力の否定者である先生を暴力をもって擁護するのは、先生に恥をかかせる以外の、何ものでもない。――また、彼はこういうことを言った。――五・一五事件の軍人たちは相手の血で自分たちの目的を貫こうとした。しかしわれわれはわれわれの血でそれを貫かなければならない。――諸君は、この血書がこういう信念のもとに書かれたということを忘れてはならないのだ。つまり諸君はこの血書をほんとうに、生かすために絶対にストライキをやらないという約束をしなければならないのだ。諸君はそれを承知してくれるのか。」
「むろん承知だ。」
色の黒い美少年の梅本がまず叫んだ。つづいて「賛成」という声が五六ヵ所から起った。
「では、賛成のものはこれに署名してくれ。僕は決して強制はしない。ほんとうにこの血書の意味を理解してくれる諸君だけの署名を求めるんだ。他のどんな手段にもたよらな
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