こは五年の教室のうちで教員室から最も遠い室だった。
 みんなが集まると平尾がすぐ教壇に立って、きょうの集まりの趣旨《しゅし》をのべた。彼は最初のうち、朝倉先生に対する讃美の言葉や、その退職を遺憾《いかん》とする意味の言葉を、かなり熱のこもった調子でのべたてた。しかし、終りに近づくにつれて次第にその調子が低くなり、最後につぎのようなことを言って、壇を下った。
「とにかく、一部の委員諸君の希望もあったので、この会議をひらくことにしたが、その結果が、万一にも朝倉先生の御気持にそわないようなことになっては、先生に対してまことに申訳がないと思うから、十分|慎重《しんちょう》に考えて意見をのべてもらいたい。」
 みんなは、しばらく、ひょうしぬけがしたように顔を見合わせた。が、すぐあちらこちらに私語《しご》がはじまり、それが、たちまちのうちに、ごったがえすようなそうぞうしい話声となって、室じゅうに入りみだれた。
「このざまは何だ!」
 誰かが平尾の方をむいて大声でどなった。
「座長はいったい誰がやるんだ。平尾か、田上か。」
 そう言ったのは新賀だった。平尾はあわてたように田上の横顔を見た。田上は、し
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