した。新賀は、
「ほう、その指をきるんだね。」
 と、感心したように見ていたが、
「書いたの、もって来なかったんか。」
「持って来たよ。」
「見せろ。」
 次郎は内かくしから血書を出して新賀にわたした。新賀はそれを受取ると食い入るようにそれに見入っていたが最後に大きなため息をつきながら、それを次郎に返そうとした。次郎は、しかし、かぶりをふって、
「それは君にあずけておく。僕が書いたこと、みんなに言わないでくれ。」
 新賀はちょっと考えてから、
「うむ。」
 と、大きくうなずいて、血書を自分のかくしにしまいこんだ。間もなく始業の鐘が鳴って二人は教室に入ったが、次郎は新賀に血書をあずけて何かほっとした気持だった。
 ひる休みごろには、全校の気分が何となくざわめき立っていた。上級生の中には、五人、十人と、あちらこちらに集まって、すでに私的に意見を交換しているらしかった。次郎は、そんな様子を心強くも不安にも感じながら、自分ではなるだけそうした集まりに近づかない工夫をしていた。
 授業がすむと、校友会の委員たちは、ある者は考えぶかそうに、ある者ははしゃぎながら、二階の一番おくの教室に集まった。そ
前へ 次へ
全368ページ中52ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング