とで先生もきっと喜んで下さるだろう。」
 俊亮が階下におりると、次郎は血書をていねいにたたんで制服のかくしにしまいこんだ。そして電燈を消してすぐ蚊帳に入ったが、永いこと寝つかれなかった。それは俊三のいびきのせいばかりではなかった。血書を書く時とはまるでちがった性質の一種の興奮が、彼の心臓をいつまでもはずましていたのである。

    三 決議

 あくる日、次郎が学校に行くと、新賀がまちかねていたように彼を校庭の一隅の白楊《ポプラ》のかげにさそい出して、言った。
「平尾のやつ、ずるいよ、きのう、あれひとりで朝倉先生をおたずねして、何もかも話してしまったらしいんだ。」
「ふうん、――」
 と、次郎もさすがにあきれたような顔をして、
「何のためにそんなことをしたんだろう。」
「そりゃあ、わかりきっているよ。留任運動がやりたくないからさ。」
「それで朝倉先生に反対してもらおうというのか。」
「そうだよ。」
「しかし、朝倉先生が反対なことは、わざわざ先生にあってたずねてみなくたって、わかっていることじゃないか。」
「それがあいつのずるいところだよ。わかっていることでも、たしかめておかないと、強
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