ろう。おまえ自身でやぶいてすててもいいという気になれば、その血書の生臭味はもうそれで洗い流されたようなものだ。それに、いざストライキにでもなろうという場合、血書を取消したために、ものが言えないような立場になっても困るだろう。ことにおまえがストライキに反対だとすれば、なおさらのことだ。」
 次郎は、きまりわるそうに血書を机の上において、しわをのばしはじめた。
「血書なんて、たいていしわくちゃになっているものだよ。そう大事にせんでもいいさ。」
 俊亮は笑いながら、そう言って立ちあがったが、
「まあ何ごとも修行だと思って、思いきり自分の信ずるところをやってみるさ。自分のおだてに乗りさえしなければ、それでいいんだ。いや、自分で自分のおだてにのらない修行をするんだ、とそう思って万事にあたって行くんだよ。実際、今の時代にはそれが一番大切な修行だからね。そう思うと、朝倉先生は、お前たちのためにいい機会を作って下すったものだよ。先生としては御迷惑だろうが、この機会を生かすんだな。事件はあるいは非常にもつれるかも知れない。しかし、事件がもつれて行く間に、今言ったような修行がおまえたちに出来るとすれば、あ
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