手なことを申しましてすみませんでした。」
黒田先生は気まずそうに眼をおとしていたが、
「本人はまだあちらに待たしてあります。今日はごいっしょにおつれ帰り下さる方がいいかと思いまして。」
「そうですか。それはどうも。」
俊亮は何か可笑しそうに微笑した。
ちょうどその時間の終りの鐘が鳴った。俊亮は黒田先生のあとについて、さわがしくなった廊下を通り、次郎の待っている室にはいったが、次郎はその時、窓の近くに立って外を見ていた。
「じゃあ、次郎、帰ろう。」
俊亮はそれだけ言ったきり、一ことも口をきかなかった。次郎も父の顔を見て、ただうなずいたきりだった。
間もなく二人は黒田先生に見おくられて玄関を出た。次郎は、方々からたくさんの眼が自分を見ているのを感じて、さすがにいい気持はしなかった。
校門を出ると、すぐ俊亮がたずねた。
「どうだった。最後の瞬間に動揺はしなかったかね。」
「そんなことありません。僕、黒田先生にかえって気の毒だったんです。」
「どうして。」
次郎は黒田先生との対話のあらましを話して、
「僕、先生にあんなふうに言われると、どうしていいかわからなくなるんです。」
「あ
前へ
次へ
全368ページ中363ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング