ありませんわね。この暑いのに、わざわざ鋤焼をおねだりなさるなんて。」
「わしらも、士官学校時代には、真夏でもよくやったもんさ。」
「でも、みなさんは面白い方ばかりですわね。」
「それぞれに何かかくし芸までやるのには、わしもおどろいたよ。」
「あの詩吟のうまい方、何という方でしたっけ。あの時はじめていらっした方ですけれど。……」
「馬田だろう。」
「そう、そう、馬田さん。……あの方のお父さんは県会議員ですってね。」
「そうだ。今どきの議員にしちゃあ、めずらしい議員だよ。非常な国家主義者でね。」
次郎は、馬田の最近の動静を、それでおぼろげながら窺《うかが》うことが出来たような気がした。しかし、そのために、彼の不愉快さは一層つのるばかりだった。彼はあくまでも口をきかず、出された食べものにも手をつけようとしなかった。
それで少佐も夫人も次第に気まずそうな顔になり、おしゃべりもとだえがちになった。そして、とうとう夫人は次郎を尻目にかけるようにして、部屋を出て行ってしまった。
夫人が出て行ったあと、少佐はしばらく何か考えていたが、急に厳格な態度になって言った。
「きょう君にわざわざ来てもらっ
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