音と群集の叫び声との中では、何のききめもなかった。二人の眼は、依然《いぜん》として生徒の群にそそがれたまま、二間、三間と通り過ぎて行った。
「せーん、せーい。」
次郎は、もう一度根かぎりの声で叫び、帽子と手拭をにぎった両手を、上体ごと、大きく左右にふった。
すると、夫人がやっと彼に気がついたらしく、視線がぴたりとあった。次郎には、夫人の眼が悲しげに微笑しているように思えた。
先生の眼は、しかし、まだ生徒たちの群にそそがれたままである。彼はもうだめだと思った。その瞬間、夫人の白い手がだしぬけに窓からのびて、彼の方を指さした。先生に注意をうながしたものらしい。
やっと先生の眼が彼の方に注がれた。彼の胸は悦びにおどった。双方の視線は針金のように結びついた。しかし、次郎にとって、それは何という不思議な瞬間だったろう。彼は、先生の眼から、これまでかつて見たことのない、険《けわ》しい、つめたい光がほとばしっているのを見たのである。
彼の視線は、石をぶっつけられた電線のようにふるえた。しかし、眼をそらしてしまうには、それは彼にとってあまりにも貴重な瞬間だった。先生の最後の眼、それがたとい彼
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