自然にのみこめて来る時があるだろうと思う。」
先生は、そう言って、またちょっと言葉をとぎらした。そして、ちらと俊亮の横顔をのぞいたあと、口もとにいくらか微笑をうかべながら、
「えらい固くるしい話をしたが、これが私の置土産だ。しかし、もう一つ、置土産がある。それは、五六日もまえから、こころ用意だけはしていたが、今夜君らとこうして会えるとは思っていなかったし、いつ、どこで、どうして諸君のまえに差出したものか、迷っていたところだ。ところが、はからずもこういう機会が恵まれたので、早速差出すことにしたい。それは、私に代って、この白鳥会を指導していただく先生だ。」
弱い電燈の光と、淡い月の光との交錯する中で、みんなの眼が一せいに光った。恭一と次郎とは、あわてて視線を先生からみんなの方に走らせたあと、顔を伏せた。朝倉夫人は微笑しており、俊亮は泰然としている。
「置土産と言っては甚だ失礼だし、先生というのはあるいは少しあたらないかと思うが、その置土産にしたい先生というのは、実は、こちらにいらっしゃる本田君のお父さんだ。お名は、もう存じあげている人もあるだろうと思うが、俊亮さんとおっしゃる。」
み
前へ
次へ
全368ページ中268ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング