に向いていないということについては、いろいろ説明しなければならないこともあるが、今夜は私はそれについて何も言いたくない。言ってもどうにもならないことだし、言わなくても、いすれは諸君が身をもって体験することだと思う。」
次郎は「おや」という気がして、もう一度先生を見た。先生も、ちょうどその時、次郎の方に視線をそそいでいた。
「しかし、――」
と、先生は次郎から眼をはなし、
「念のため、ただ一ことだけ言っておきたいことがある。それは、国民の良心が完全にねむらされる時代が来るということだ。このことは、或いは国民の多数が気がつかないでしまうかも知れない。諸君もよほどしっかりしていないと、恐らくそれに気づかないでしまうだろう。それは、悪い時代のいろいろの現象に逐いたてられて、国民の頭が、自分でも気づかないうちに狂ってしまうからだ。しかし、日本にとってこれほど危険なことはない。何が悪い時代だといって、国民の良心が眠らされる時代が来るほど悪い時代はない。そういう時代には、善と悪とがあべこべになり、光栄と恥辱とがその位置をかえ、一時的な喜びのために永遠の喜びが台なしにされ、野心家が権力の地位につい
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