にはじかれたように、急に眼をあげて先生を見た。
 彼は、五・一五事件が起きて二三日もたたないある晩、ひとりで先生をたずねたことがあったが、その時、先生が、いつもにない沈痛な顔をして、張作霖《ちょうさくりん》の爆死事件以来、柳条溝《りゅうじょうこう》事件、上海事変、満州建国とつぎつぎに大陸に発生した事件の真相を説明し、もし日本がこのままの勢いでおし進むならば、道義日本の面目はまるつぶれになるであろう。そして国際的には全く孤立の状態に陥《おちい》り、国内的には一種の暗黒時代が来るにちがいない。その結果、国運は隆盛になるどころか、或は百年の後退を余儀なくされるかも知れない、とまで極言したことを思いおこしていた。
(先生は今夜思いきって、みんなにそのことを言おうとしていられるのだ。)
 そう思うと、彼は何か秘密な会合にでも臨《のぞ》んでいるような気になり、一瞬、息をつめ、先生のつぎの言葉に耳をそばたてながら、みんなのそれに対する反応を読もうとして、眼を八方にくばった。
 先生は、しかし、次郎の予想に反して、そうした現実の問題には何ひとつふれず、ごくあっさり話を片づけてしまった。
「時代がいい方
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