はなかった。先生は見ひらいた眼を二三度しばたたいたあと、坐ったままで、ぽつりぽつり話し出した。その中には次のような言葉があった。
「私は、つい一時間まえまでは、諸君と今夜こうして集まることが出来ようとは少しも思っていなかった。それは、私自身、集まるまいと決心していたからだ。」
「集まるまいと決心していた間は、諸君に言って置きたいことが山ほどあるような気がしていたが、現にこうして集まってみると、ふしぎに何も言うことがないような気がする。これは、おそらく、この集まりが、すみからすみまで人間の真実にみたされているからだと思う。真実にみたされた世界では、言葉というものはあまりその必要がないものなのだ。」
「私が諸君と集まるのをさけたのも、私の人間としての真実であった。それは諸君の真実とはまるで正反対の方向をとっていた。しかし両者の間に矛盾はない。それはいずれも人間の真実だからだ。両者は光と闇のようなものではない。いずれも光で、ただその位置を異にするだけだ。光の交錯《こうさく》は決して闇の原因にはならない。それどころか、それはあらゆる場所から闇を退散させる力なのだ。人間は、だから、それぞれの位置
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