様子を見たいと言ったが、俊亮が、
「どうせ今夜は二階で月見をやる計画ですから、その時にしていただきましょう。」
 と、言ってとめたので、そのままになった。
 そのあと、お芳に代って、次郎たちが代る代るお酌をした。話もかなりはずんだ。それは、しかし昨日とちがって、朝倉先生の問題にはあまりふれず、大沢と恭一との高等学校生活が話題の中心になった。俊亮も、ビールのせいか、口がいつもより滑《なめ》らかだった。彼はわかいころの政治運動の失敗談などをもち出して、みんなを笑わせた。
 朝倉先生は、酒量はさほど弱い方ではなかったが、それでも俊亮の相手ではなく、四五杯かたむけたあとは、コップにはいつもビールが半分ほど残っていた。
「あまりお強い方ではありませんね。」
 俊亮はそう言って、無理にはすすめなかった。そして時には朝倉夫人にお酌をしてもらったりして、ひとりでぐいぐいコップを干した。
「奥さん、ご迷惑でしょうがもうしばらくご辛抱下さい。きょうは月見がてら、ご飯はみんなでごいっしょにいただきたいと言っていますから。」
 彼は注いでもらいながら、そんなことを言った。
 ビールが四五本もからになったが、日
前へ 次へ
全368ページ中247ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング