はまだあかるかった。俊亮は思い出したように次郎を見て、
「どうだい、もうそろそろ二階に移動してもいい頃じゃないかね。先生もあまりおのみにならんし、おまえたちもひもじいだろう。」
「ええ、ちょっと見て来ます。」
 次郎は変に眼で笑って座を立った。
 それから間もなくだった。茶の間から座敷にかけての瓦廂《かわらひさし》を、人の歩くらしい音が、ひっきりなしにきこえ、二階が何となくざわめき立って来た。静粛を保とうとする努力を、弾《はず》んだ肉体がたえず裏切っているといった音である。
 俊亮と大沢とはずるそうに眼を見あった。恭一は少し顔をあからめてうなだれた。俊三もうなだれたが、しかし彼はこらえきれぬ可笑しさを押しつぶそうとしているかのようであった。
 朝倉先生夫妻は耳をそばだて、眼を光らせて、天井を見た。
「何です、あの音は?」
 朝倉先生は腰をうかすようにしてたずねた。
「きょうは、先生ご夫妻に、月見かたがた芝居をご覧に入れる趣向《しゅこう》なんです。」
「芝居ですって?」
「筋書きは次郎と私との合作ですがね。」
 廂《ひさし》にはもう音がしない。二階のざわめきもしだいに落ちついて来た。
 
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