そう。では、ちょっと失礼します。しかし、井戸端より川の方がいいんです。」
朝倉先生は、袴をぬぐと、ひとりで表の方に出て行った。
俊亮はそのうしろ姿を見おくりながら、何か可笑《おか》しそうな、しかしいくぶん当惑したような表情をしていたが、その表情が消えると、すぐしんみりした調子で朝倉夫人に言った。
「何だかお別れするような気持がいたしませんね。」
「ほんとに。」
朝倉夫人は淋しく微笑した。お芳のえくぼが一瞬消えたように見えたが、彼女はそのまま台所の方に立って行った。
十分もたたないうちに朝倉先生は帰って来た。その時にはもう、卓にはいく品かのご馳走がならんでいた。ぬれたビール瓶やサイダー瓶の周囲に、トマトや、胡瓜《きゅうり》やオムレツの色があざやかだった。
「永いこといて、一度も川にはいったことがありませんでしたが、すいぶんつめたい水ですね。」
先生はそう言って袴をはき出した。
「どうぞ袴はそのまま。」
と、俊亮が手で制すると、
「いや、行儀があまりよくない方ですから、袴をつけている方が却って楽なんです。」
座についてお芳にビールをついでもらいながら、先生はまた川のことを話題
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