彼女は、ただそれだけ言って引きさがろうとした。俊亮もべつに紹介しようともしない。
「奥さんでいらっしゃいますか。」
 と、朝倉夫人が座ぶとんをすべって初対面のあいさつをしたが、くどくない、要領のいいあいさつだった。
 夫人のあいさつがすんだあとで、先生もあいさつした。
「ご主人には始終ご厄介になっています。きょうは大変お手数をかけまして。」
 そう言ったきりだった。
 お芳は二人のあいさつに対して、「はい」とか「いいえ」とか「どうぞ」とか言うだけで、自分からはほとんど口をきかなかった。しかし、べつにまごついているようなふうでもなかった。かなり日にやけた頬に、例の大きなえくぼが柔かいかげを作っているのが、先生夫妻の眼には、いかにも素朴《そぼく》にうつった。
 あいさつがすむと、もう古くからの知りあいででもあるかのような気安さが、二組の夫婦の間に流れていた。
「すぐおビールにいたしましょうか、よく冷えていますけれど。」
 お芳が言った。
「うむ。奥さんにはサイダーをね。……しかし、先生、ちょっと汗をおふきになりませんか。風呂はわかしておりませんが、井戸端で行水でも。」
 俊亮が言うと、

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