ちっともその限度をこえていないんだ。秩序をみだして相手を脅迫するストライキとは、根本的に性質がちがっているよ。だから、朝倉先生を侮辱することにはならないさ。僕はそう信ずる。」
「しかし――」
と、この時、平尾が近眼鏡の奥の眼をしばたたくようにしながら、めずらしく口をきった。
「本田は、いったい、どんな方法で血書や血判をあつめるつもりなんだい。まさかそんなことを全校生徒に強制するわけにもいくまいし。」
「そりゃ無論さ。こんなことはみんなの自由意意でなくちゃあ、意味をなさんよ。だから、僕は、強いて全校生徒からそれを集めようとは思っていない。出来れば五年生ぐらいは全部加わってほしいと思うが、それが無理なら、校友会の委員だけでもいい。それが無理だというのなら、有志だけでも仕方ないさ。」
「しかし、こんなことは、めいめいの自由意志にまかしておくと、ほとんど加わる人がないし、ちょっと勧誘すると、強制になってしまうものだよ。君はそんなことについても考えてみたかね。」
「考えてみたさ。僕が一ばん考えたのは、その点だったんだ。」
「では、どうするんだい。」
「僕は、まず僕ひとりでやる。」
「君ひとりで
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