「生徒は来ない。しかし、君のお父さんが何度も来て下すったんでね。」
「父が?……そうですか。」
次郎はちょっと意外だった。しかし、考えてみると、ありそうなことではあった。
「来ていただいては君のためによくないと思って、何度もそう申したんだが、お父さんは、『大丈夫だ。次郎も本筋だけは大してまちがっていないようだから』とおっしゃって、まるでとりあわれなかったんだ。」
次郎の眼はまたひとりでに伏さった。重苦しいほどの幸福感で、急に胸がいっぱいになったのだった。
「荷物がこんなに早く片づいたのも、君のお父さんに何かとお世話を焼いていただいたおかげなんだよ。永いことこの家に住んでいたんで、がらくたあだいぶたまっていたが、それも君のお父さんが一切引きうけて、古道具屋に売って下すったんだ。あんなことにもお心得があるんだね。」
次郎は幼ないころに経験した自分の家の売立の日のことを思い起し、ちょっとほろにがい気持になったが、一方では、そんな場合の父の超然《ちょうぜん》とした顔付を想像して、何かユーモラスなものを感じた。
「父はそんなことには以前からなれているんです。」
「そうかね、元来商売のお上手
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