そんなこと。」
 肩をゆすぶられた生徒は、おこったように答えた。
「これまでは、辞令の発表といっしょに掲示が出たんじゃなかったかね。」
「そうだったかね。」
「どうして今度は出ないのだろう。」
「まだきまってないからだろう。」
 相手は、まるでそれを問題にしていなかったらしかった。
「そうかなあ。」
 次郎は仕方なしにそう答えたものの、心の中では、相手を低能だと罵《ののし》りたくなるくらいだった。
(学校は朝倉先生の送別式をおそれている。それで、何とかして、それをやらない工夫をしているんだ。)
 彼には、そう疑えてならなかったのである。
 間もなく午後の課業がはじまった。次郎たちのクラスは武道の時間だった。彼は剣道場に入って面をかぶりながら、入学後はじめて朝倉先生を知ったのが、ちょうど剣道の時間の直前だったことを思い出し、何か物悲しい気持にさそいこまれた。あの時、自分が、剣道は何のために稽古をするのか、という質問を出したのに対して、先生は、言下に、「見事に死ぬためだ」と答えられ、その意味を懇《こん》々と教えて下すったが、それがほんとうに理解出来たのは、いつごろのことだったろう。彼はそん
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