ほどのところまで来た時には、もう誰も彼を見ているものはなかった。中には、そ知らぬ顔をして掲示台のまえを立ち去るものもあった。馬田もそのひとりだったが、彼は仲間のひとりと肩をくみ、わざとらしい笑声を立てながら、次郎の来た方とは反対の方に立ち去ったのであった。
 次郎は、何か異様な、つめたい怒り、とでもいったような感じにとらわれたが、ちらと馬田のうしろ姿を見ただけで、すぐ掲示板の方に眼をやった。辞令の文句は宝鏡先生の時と全く同じだった。
「願ニ依リ本職ヲ免ズ」
 何という簡単な、型にはまった文句だろう。どんなに自分たちの尊敬している先生でも、辞表を出せば、ただこの文句一つでわけなく片づけられて行くのだ。そう思って彼はむしょうに腹が立った。
 しかし、次郎の気持を一層刺戟したのは、先生の転任や退職の場合には、その辞令の発表と同時に、いつも送別式の日時が発表される例になっているのに、それについては何の掲示も出ていないことだった。
「おい、君――」
 と、彼はあわてたように、彼の一番近くに立っていた生徒の肩をいきなりゆすぶってたずねた。
「朝倉先生の送別式はいつあるんだい。」
「知らないよ、僕、
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