。どうだい、そんなこともあるし、よかったらやって来ないか。」
 次郎は、曾根少佐が自分に対する好意からそんなことを言っている、とはむろん思わなかった。
(ついさっきまで、西山教頭と二人で自分の方を見ながら何を話しあっていたのだ。)
 彼は、そう反問してやりたいぐらいだった。
「ご用はそれだけですか。」
 彼はまともに少佐を見あげてたずねた。皮肉以上のつめたさである。
「う、ううむ、――」
 と、少佐は、それまでひねりつづけていたひげから、急に指をはなした。その指は、ばねのとまった機械人形の指ででもあるかのように、ひげの先端にぴたりととまって動かなかった。
 次郎は平然として返事をまっている。
「そうだよ。用事はそれだけだよ。しかし是非にとは言わん。来たくなけりゃあ、来なくてもいいんだ。」
 少佐自身では、怒った調子の中に、言外の意味をふくませたつもりで言った。次郎には、しかし、却ってそれが滑稽にきこえた。彼は内心ひそかに勝利感を味わいながら、
「きょうは、僕おたずね出来ません。」
「どうして?」
「朝倉先生をおたずねするんです。」
 少佐の眼がぎろりと光り、カイゼルひげがぴりぴりとふる
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