し得たとは思えない。いや、朝倉先生のような真面目な態度をとり得なかったところに、すでに宝鏡先生の運命があったのではないか。祖先から伝わる血、天分、それを運命でないと誰がいいうるのか。ひとり祖先からつたわる血や天分だけではない。物ごごろつくまでの生活環境だって同じだ。苗《なえ》の時に曲げられた木の幹を、誰が完全に真直にすることが出来るのだ。)
 ここまで考えて来た彼は、もう彼自身の幼年時代の、憎悪と、策略と、偽善と、闘争《とうそう》とに駆り立てられていた頃の生活を思い出した。そして、それを彼の最近の心境とてらし合わせて、思わす身ぶるいした。
(もし、自分がこないだ日記に書いたことが、自分の幼年時代に根をおろした運命のいたずらに過ぎないとすると――)
 彼はなぜかやにわに起きあがって、あたりを見まわした。近くには誰もいなかった。掲示台のまえには、相変らず生徒たちがむらがってさわいでいる。彼はその方にちょっと眼をやったが、すぐ視線を転じて、見るともなく、玄関の左側になっている生徒監室の窓を見た。永いこと朝倉先生が生徒監主任として机をすえていた、そのすぐうしろの窓なのである。
 彼は一瞬はっと
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