いた。わら小屋にねていたのを村の青年たちに叩き起されて、白野老人の家につれて行かれたときのことや、田添夫人に見送られて筑後川を下った時のことが、お伽《とぎ》の世界のように思いおこされた。それは彼の現在の世界とはあまりにもかけはなれた世界であった。
「無計画の計画。」
彼は思わずつぶやいた。あの時の思い出ときってもきれない因縁《いんねん》のあるその言葉が、彼の頭の中に、何かほのぼのとした光を流しこんだのである。同時に、彼は、無性に恭一と大沢との帰省が待ちどおしくなって来た。
(朝倉先生の問題については、二人には、ついうっかりしてまだ何にも知らしていない。帰って来たらさぞおどろくだろう。僕たちのとった態度についてもきっと何か不平を言うに違いない。)
一方ではそんなことを考えながらも、彼には、二人の帰省が、すべてを解決する鍵《かぎ》のように思われて来たのだった。
一〇 掲示台
朝倉先生の退職の辞令が掲示板に書かれて正式に発表されたのは、それから三日目の正午すこしまえだった。生徒の中には、すでにその朝の新聞を見て知っていたものもあり、それが全校につたわっていたので、午休みにな
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