僕の頭の中だけのことでしかなかったのだ。僕は現に、僕の周囲にまざまざと沢山の敵を感じている。僕が子供のころに感じていたのと同じように、ごくわずかな人間をのぞいては、すべての人間が敵のように感じられるのだ。そして、敵と感じたものに対しては徹底的に戦わないではいられないのが、僕の運命づけられた性格だ。それが呪わしい性格であることは僕自身でよく知っている。しかし、僕が僕の幼いころの運命を僕自身で抹殺《まっさつ》することが出来ないかぎり、或はそれを無力にするだけの新しい運命が僕にひらけて来ないかぎり、それをどうすることも出来ないのが現実の僕の性格だ。それは僕にとって、本能だとさえいえるのだ。
その本能が、今、僕の内部にむくむくと頭をもたげつつある。僕は僕にとってその本能こそ最大の敵だと思うのだが、そう思うのは僕の頭でしかない。僕の胸は、血は、それにすぐにも味方したがるのだ。ではどうすればいいのか、どうすればその本能に打克ちうるのか。
だが、僕はまた一方で考える。人間は果して人間を絶対に敵としてはならないものかどうかと。神でさえ悪魔という敵をもっているではないか。「汝の敵を愛せよ」と教えた聖
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