、無数の敵に囲《かこ》まれているような感じがする。そのために僕の内部には、子供のころの闘争心や、策謀や、偽善や、残忍性や、その他ありとあらゆる悪徳が、ふたたび芽を出しはじめたらしい。しかも、僕は、そうした悪徳に身を任せることに一種の快感をさえ覚えはじめている。恐ろしいことだ。僕はこの誘惑に打克《うちか》たなければならない。もし僕がこの誘惑に打克つことが出来ないなら、僕は、父の子として、朝倉先生の教え子として、これまで持ちつづけて来た誇りと喜びとを捨ててしまわなければならないだろう。それは僕の全生命を捨てることを意味するのだ。
 だが、僕は果してこの誘惑に打克つことが出来るのか。今の気持では不安で仕方がない。現に今夜も、あぶなく俊三におどりかかって、のど首をしめつけてやりたくなったのではないか。学校でだって、変な眼で僕を見たり、なぞのような言葉で遠くから僕をひやかしたりする生徒を、そのまま見のがして置くのは実際たえがたいことだ。僕は朝倉先生の教えをうけて以来、敵という観念を否定しつづけて来た。そして愛と調和と、そしてそれに出発した創造のみが人間の生活にとって有用だと信じて来た。だがそれは
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