知っていたよ。」
「知っていて、よくがまんしてるね。」
「言わしとくさ。面倒くさいよ。」
「だって、そんなこと、だまっていていいんかなあ。」
「わるくたって、仕方がないさ。どうせ馬田なんかが言いふらしたんだろう。僕は当分あいつらを相手にせんよ。」
「相手にしてはわるいんかい。」
「僕には考えがあるんだ。」
 次郎は面倒くさそうだった。
「どんな考えだい。」
「うるさいね。今にわかるよ。」
 俊三はぬすむように次郎の顔を見て、にやりと笑った。そしてすぐ蚊帳《かや》にもぐりこんだが、枕に頭をつけながら、彼は小声で口ずさんだ。
「英雄の心緒みだれて麻の如しイ。」
 次郎は腹の底から俊三に対する憎しみの情がわいて来るのを感じた。それは彼が子供のころ俊三に対して抱いていた敵意とはまるで質のちがった、新しい憎しみの情だった。
 彼はその感情をおさえるために、ひらいた本の同じページを見つめたまま、蚊にさされながら、永いこと机によりかかっていなければならなかった。そしてやっと気持をおちつけ、このごろには珍しいほどの長い日記を書いたが、その中にはつぎのような一節があった。

     *

「……僕は今
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