となんか、頭をつかわなくたって、すぐ出来ることじゃないか。」
馬田は下品ではあるが、頭はそう悪い方ではない。自分の理窟に曲りなりにも一通りの筋道を立てるぐらいなことは、十分出来る生徒なのである。
次郎は、自分が一番心配していたストライキの煽動者《せんどうしゃ》を、相談のしょっぱなから、しかも馬田のような生徒に見出して、いらいらし出した。最初のうち、彼は、自分の考えもまだ十分まとまっていないし、今日はなるべくほかの生徒たちの意見をきこうと思っていたのだが、もうだまってはおれなくなって来た。それには、平尾と大山とが一言も言わないで坐っているのも、いくらか原因していたのである。
彼は、先ず平尾と大山の顔を見くらべながら、朝倉先生の人格に対する彼の信仰にも似た尊敬の念を披瀝《ひれき》し、先生なきあとの学校を論じて、留任運動の絶対に必要なる所以《ゆえん》を力説した。それから、強いて自分をおちつかせるように、声の調子をおとし、馬田の方を向いて言った。
「しかし、留任運動は純粋な留任運動でなければならないと僕は思うんだ。それがほかの不純な目的のためにとって代られることは、最初から運動をやらない
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