れでいいんだ。」
 次郎はおちついて答えた。
「それが成功すると思っているのか。」
「成功させるよ。」
「知事がきめたことが、僕たちの運動ぐらいでひっくりかえるもんか。」
「全生徒が誠意をもって願えば、知事だって考えるよ。」
「ふふん。」
 馬田は鼻であざ笑った。そして、次郎なんか相手にならないといったようなふうに、ほかの生徒たちの方を見て、
「本田のようなお上品な考えかたには、僕は賛成出来ないよ。そりゃあ、一応形式的に校長や県庁に願い出るのはいいさ。しかし、どうせ成功はしないよ。成功しなかったら、それで默ってひっこむかね。」
 誰も返事をしない。留任運動をやろうという以上、誰もがそこまでは考えたことであり、馬田のような問題には、みんなが一度はぶっつかっていたことなのである。
 馬田は勝ちほこったように、
「結局はストライキだよ。ストライキまで行けば、知事も或は考えなおすかも知れん。かりにそれがだめだとしても、校長や、いやな教員を追い出すぐらいなことは、きっと出来るよ。だからはじめからストライキの覚悟をきめて、その計画をやる方が実際的だと僕は思うね。代表を出して、おとなしくお願いするこ
前へ 次へ
全368ページ中20ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング