の間にまで伝わって来た。それだけならまだよかった。
「本田には恋人がある。彼が血書を書いたのも、その恋人に自分の勇気のあるところを見せたかったからだそうだ。」
「その恋人というのが気の弱い女で、この頃では本田が退学されそうだというので、悲観しているらしい。本田が軟化したのもそのためだそうだ。」
「いや、そんなはずはない。その女は本田の親類だが、いつも本田の顔を見るのもきらいだと言っているそうだから、本田が退学されたって悲観するはずがない。」
「しかし、とにかく、本田の態度がその女に動かされていることだけはたしからしい。」
「あるいはそうかも知れん。いやに考えこんだり、気狂いのように人にくってかかったり、意見がぐらぐら変ったりするところは、全く変だ。」
「けしからん奴だ。制裁してやれ。」
「そのうち、きっと何かはじまるだろう。」
 噂は、こうして尾鰭《おひれ》をつけ、それが生徒たちのざわめきに輪をかけることになって来たのだった。
 こうした噂は、むろん次郎の耳にもはいらないわけはなかった。彼はそれが馬田一派の宣伝だと思うと、無性に腹が立った。しかし今は何もかも朝倉先生のために我慢する気で
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