みがないとは限らない。もし父の言うように、時代に反抗する一切の努力がむだ玉だとするならば、朝倉先生もまたむだ玉をうたれたことになるのではないか。」
九 二つの敵
次郎は、この一週間ばかり、考えぶかくすごして来た。
血書撤回のことは、すぐその翌日、新賀と梅本とによって校友会の委員会に持ち出されたが、わけなく否決された。ストライキ派が、それを撤回されてはストライキの口実がなくなると思っているところへ、反対派の一人が、「血書をひっこめたら、われわれの朝倉先生に対する気持までひっこめたことになるんだ。」とどなったので、ほとんど問題にならなかったのである。
それでも、新賀と梅本とは、決をとるまで、しきりに次郎のこれからの危険な立場を述べたてて賛成を求めた。これには、ストライキ反対派の中に同感の意を表したものも多少あった。しかし、次郎本人が、
「血書は私情で書いたものではない。それを私情でひっこめることは絶対に不賛成だ。」
と、強く言いきったので、新賀も梅本も、結局あきらめるより仕方がなかったのである。
血書撤回の問題がかたづくと、すぐまたストライキ問題がむしかえされた。馬田
前へ
次へ
全368ページ中189ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング