ている時、ばかりだったのでね。」
いつもの俊亮だと、そんなことを言うときには、少くとも微笑ぐらいはもらすのであったが、きょうはあくまでも生真面目《きまじめ》な顔をしている。それが次郎を一層しんみりさせ、これまで経験したことのない愛情の重みを彼に感じさせた。
彼はだまって父について歩くよりほかなかった。
土手をおりて鶏舎がすぐまえに見え出したころ、俊亮がまた思い出したように言った。
「それはそうと、もうむだ玉をうつのはよした方がいいね。むだ玉は血書だけで沢山だ。時代はどうせ行くところまで行くだろうし、おまえたちが今じたばたしたところで、どうにもなるものではないからね。」
次郎は、理窟を言えば何か言えるような気がした。しかし、ただだまってうなずいた。父の愛情が今は理窟をぬきにして、彼にすべてを納得《なっとく》させたのである。
彼のその日の日記には、しかし、つぎの文句が記されていた。
「――父はいつも愛情をとおして道理を説き、道理の埒内《らちない》で愛情を表現することを忘れない。しかし、わが子の安全を希《ねが》うのが現としての情であるかぎり、時として父の説く道理にも、いくらかのゆが
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