ことは言わなかった。
「県庁の方では、私からお前によく話して、血書を撤回させるようにしてもらいたい、と言っていたんだが、それはもうお前ひとりの自由にはなるまいし、第一、撤回するのがいいことか、わるいことか、私には見当がつかなかったので、いい加減に答えて置いたよ。」
そう言ったきりだった。
話をきいていて、新賀と梅本とがすぐ心配になり出したのは次郎のこれからの立場だった。二人は俊亮のような父を持っている次郎の幸福を内心うらやみながらも、次郎が血書を書いた本人だということを、そんな席上で平気で発表してしまった俊亮に対して、何か不平らしいものを感じないではいられなかったのである。次郎は二人とはまるでちがったことを考えていた。彼は何よりも県庁のやり方を卑劣だと思った。それがむやみに腹立たしく、さっきからどうなりおさまりかけていた権力に対する反抗心が、それでまたむくむくと頭をもたげ出していたのだった。
俊亮は、しじゅう次郎の様子に注意しながら話していたが、話し終ると、これで何もかもすんだ、というような顔をして言った。
「今日は風がないので県庁の二階も暑かったよ。しかし、やっとせいせいした。
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