つぶり、何か唱えながら、両手を組みあわして、ふるんだってさ。そのうちに、僕たちの学校でもそれがはじまるだろう。師範学校ではもうはじめたっていうから。」
三人は笑いながら流れに飛びこんだ。水は浅かった。深いところで腰の辺までしかなかった。それでも清冽《せいれつ》な水と白砂の感触は、学校での今日の不快な印象を洗い流すのに十分役に立った。
次郎は何度も水にもぐり、息のつづくかぎり流れに身を任せた。彼は、そんなことをくりかえしながら、ひとりでめずらしく人生哲学めいたことを考えていた。しばらくぶりで、彼は、彼が兄の恭一や大沢といっしょに筑後川の上流をさまよって以来、彼の心を支配しがちであった「無計画の計画」とか、「摂理」とかいう言葉を思い出していたのである。
彼はまた、春月亭の内儀《おかみ》に侮辱されて、人間の道義というものに絶望しかけていたとき、朝倉先生にきいたミケラシゼロの話を思いおこしていた。苔むした大理石の中に「擒《とりこ》にされていた」女神の像を、鑿《のみ》をふるって「救い出し」た芸術家の心は、清冽な水や白砂と共に彼の気持を次第に落ちつけて行くらしかった。
「おうい、本田ア。」
前へ
次へ
全368ページ中181ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング