郎は首をねじて、しばらくその方をにらんでいたが、しまいに、からだごと向きなおって、
「ちがう! ストライキは一種の脅迫だ。脅迫は断じて正しい手段ではない。それこそ道義上のなまけ者の用うる手段だ。それに――」
と、彼は一瞬馬田の方を見たあと、
「ストライキの煽動者にとっては、それは正しい目的のための手段でさえないんだ。彼らはたださわぎたがっている。ストライキ遊びをやりたいというのが、要するに彼らの本心なんだ。僕は、諸君が朝倉先生留任運動の美名に欺かれて、彼らの劣情の犠牲《ぎせい》にならないように、敢えてこの機会に警告する。」
「よけいなおせっかいだ。」
馬田の相棒の一人が叫んだ。しかし、そのほかには誰も何とも言うものがなかった。それは、次郎のいった言葉に同意したというよりも、むしろ彼の気魄に気圧されているかのようであった。入学当時の彼の英雄的行為が、ここでもみんなの心理に作用していたことはいうまでもない。
しばらく沈默がつづいた。次郎は廊下にならんでいる馬田の仲間の顔を、ひとりびとり念入りに見たあと、また教室の中心の方にむきをかえ、いくらか沈んだ調子で言った。
「しかし、今から考え
前へ
次へ
全368ページ中134ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング