方から、
「そうだそうだ!」
「うまいぞ!」
「馬田、しっかり!」
 などと声援がおくられた。
 が、みんなの視線がその方にひきつけられたとたん、教室の床板にすさまじい音がして、周囲のガラス戸がびりびりとふるえた。それは新賀が今までつっ立っていた机の上からだしぬけに飛びおりた音だった。彼は飛びおりたその足で、まっすぐに馬田の方につき進んだ。そして、そのまんまえに仁王立になって、言った。
「君はいま、みんなを尊敬していると言ったね。」
「うむ、言ったよ。」
 と、馬田もほとんど無意識に立ち上った。そのひょろ長いからだが、いくぶんくねってゆれている。
「じゃあ僕はどうだ。僕も君の尊敬している一人か。」
「むろんだよ。」
「ばかにするな!」
 新賀はこぶしをふりあげ馬田をなぐろうとした。しかし、もうその時には、次郎が二人の間に割りこんでいた。彼は新賀をうしろにおしもどしながら、
「なぐるのはよせ。どんなに腹が立っても、僕らが暴力を用いたら、何もかもおしまいだ。」
「うむ。」
 と、新賀は案外おとなしくうなずいて、自分のもとの席にもどったが、いかにもぐったりしたように、そのまま眼をつぶり、両手
前へ 次へ
全368ページ中131ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング