。役所というところを君らは全く知らないんだから。」
「僕はそんな意味で考えが足りなかったとは思っていないんです。役所は正しいことを通すのがあたりまえでしょう。」
「うむ、それで?」
「それで僕たちが正しい願いだと思った事を役所に出すの、あたりまえです。考えが足りないことなんか、ちっともありません。役所がだめだから正しい願いでも、慮して出さないで置こうかなんて考える人があったら、その人こそ考えが足りないと僕は思うんです。」
 次郎は、もうすっかり、いつもの彼をとりもどしていた。
「なるほど。これは痛いところを一本やられた。僕もいつの間にか現実主義者になってしまっていたわけか。ははは。ところで、君の考えが足りなかったというのは、すると、どういう点かね。」
「僕、きょう――」と、次郎は、また急に眼を伏せて、「学校のかえりに朝倉先生をおたずねしてみたんです。そして、僕たちの願いをかりに県庁が許してくれても、それで先生が辞職を思いとまられることはない、ということがはっきりしたんです。先生としては、それがあたりまえです。僕、そのことにちっとも気がついていなかったんです。」
「うむ。……なるほど。」
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