ずつさがって、今ではやっと優等の尻にぶらさがっている程度の成績である。おっとりしたのんき者で、まんまるな顔がいつも笑っているように見えるせいか、「満月」という綽名《あだな》をつけられており、同級生からばかりでなく、下級生からも非常に親しまれている。馬田とこの二人とは白鳥会には関係がない。
校友会関係でいうと、六人ともそれぞれに何かの委員をやっており、平尾が総務、次郎が文芸、梅本が弁論、新賀が柔道、大山が弓道、馬田が卓球となっている。むろん、このほかにも、剣道、野球、庭球、登山、陸上競技、水泳、図書などの部があり、委員の数も各部二名乃至三名ずつで、校友会の問題ばかりでなく、学校に何か問題があると、それら五十名近くの委員が全部集まって相談することになっているが、今日は新賀と梅本とが中心になり、とりあえず、学校にまだ残っていた委員だけを集めてやって来たわけなのである。学校からかなり遠い次郎の家をわざわざたずねて来たのは、秘密の相談所としてそこが適しているという理由もあったが、主なる理由は、いやしくも朝倉先生の問題に関するかぎり、最初から次郎を除外するわけにはいかない、という新賀の肚《はら》があったからである。
「俊ちゃんは下におりとってくれよ。」
次郎は、俊三がまだ机のそばにねころんで、じろじろ自分たちの方を見ているのに気がついて言った。
「かまわんさ、俊三君なら。かえってきいていてもらった方がいいかも知れんよ。どうせ四年も加わってもらうんだから。」
そう言ったのは馬田だった。ほかの四人はだまっている。次郎は、
「いけないよ。まだほかの委員にも相談しないうちに、四年生がいちゃあ、あとでうるさくなるから。」
しかし、次郎の言葉がまだ終らないうちに俊三はもう階段をおりかけていた。彼は自分の顔がかくれる瞬間、新賀の方を見て、ぺろりと舌を出し、顔をしかめて見せた。新賀は、柔道仲間で、俊三ともかなり親しかったのである。
「どうだい、本田、朝倉先生がやめられるというのに、君は、まさか、默ってはおれまい。」
俊三の足音がきこえなくなると、すぐ新賀が言った。
「むろんさ。留任運動は決定的だと思うんだ。しかし、方法がむずかしいよ。僕、ひとりでそれを考えていたんだが、……」
「ひとりでかい?」
と、馬田が、変に微笑しながら、口をはさんだ。次郎はむっとした顔をして、ちょっと彼の顔を
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