眼に見えない大きな力が動いているように感じて、ともすると瞑想的になるのだった。それが、著しく彼を無口にし、非活動的にした。学校での一番にぎやかな昼休みの時間にも、よく、校庭の隅っこに、一人でぽつねんと立っている彼の姿が見られた。家で、恭一と二人、机にむかっている時、どうかすると、だしぬけに立ちあがって、恭一の本箱から詩集や修養書などを引き出して来ることがあったが、それは、いつも何かに考えふけったあとのことだった。そして、詩集や修養書を自分の机の上にひろげても、べつにそれを読みいそぐというのではなく、同じ頁にいつまでも眼を据えているといったふうであった。教科書の方の勉強は、こんなふうで、自然いくらかおろそかになりがちだったが、次郎自身それを気にしているような様子もなかった。
彼のこうした変化が、周囲の人々の眼に映らないわけはなかった。しかし、彼を見る眼は、人々によってかなりちがっていた。俊亮は、「少し元気がなさすぎるようだ。体でも悪くしたんではないか」と言い、お祖母さんは、「次郎もいよいよ落ちついて来たようだね」と言った。お芳は、そのいずれにもあいづちをうっただけだったが、お祖母さんの
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