態度がいくらかずつ次郎に対して柔《やわ》らいで行くのを見て、内心喜んでいるようなふうだった。
 次郎のほんとうの気持を多少でもわかっていたのは、恭一だけだったが、彼自身がどちらかというと非活動的であり、内面的な傾向をもっているだけに、次郎のそうした変化によって、お互いの親しみが一層増してゆくような気さえしていた。
 次郎のことを、最も真面目に心配し出したのは、あるいは大沢だったかもしれない。彼はある日、恭一に向かって言った。
「次郎君が考えこんでばかりいるのを、ぼんやり眺めているのは、いけないよ。あんなふうでは、次郎君の特長は駄目になってしまう。」
「しかし、どうすれはいいんだい。」
 恭一は、大して気乗りのしない調子でたずねた。
「たまには、喧嘩の相手になってやるさ。」
「次郎は、しかし、もう喧嘩はしないよ。しないって誓っているんだから。」
「それがいけないんだ。子供のくせにひねこびた聖人君子になってしまっちゃあ、おしまいじゃないか。」
「でも、うちじゃあ、やっと喧嘩をしなくなったって、みんな喜んでいるんだからなあ。」
「そりゃあ、お祖母さん相手の喧嘩なんか、しない方がいいさ。しかし
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