な寝てしもうたで、今夜は芋でがまんするかの。芋なら炉にほうりこんどくと、すぐじゃが。」
 時計は、もう十二時をまわっていた。大沢は微笑しながら、
「芋をいただきます。」
「そうしてくれるかの。」
 と、老人は自分で立ち上って台所の方に行った。三人は顔を見合わせた。大沢は笑ってうなずいてみせたが、恭一と次郎とは、まだ硬《こわ》ばった顔をしている。
 間もなく老人は小さな笊《ざる》を抱えて来たが、それには里芋がいっぱい盛られていた。
「小さいのがええ。これをこうして灰にいけて置くとすぐじゃ。」
 と、老人は自分で三つ四つ里芋を灰にいけて見せ、
「さあさ、自分たちで勝手におやんなさい。遠慮はいらんからの。」
「有りがとうございます。」
 と、大沢は、すぐ笊を自分の方に引きよせた、すると、老人は、
「なかなか活発じゃ。」
 と、三人を見くらべながら、茶をついでくれた。
 里芋が焼けるまでに、老人は、三人の学校、姓名、年齢、旅行の目的といったようなことをいろいろたずねた。しかし、べつに取調べをしているというふうは少しもなく、ただいたわってやるといったたずねかたであった。恭一も次郎も、しだいに気が
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